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おれ、はある地方都市で生まれ育った。父は土建屋の社長で、また 市議会議員でもあるいわゆる成り上がり者だった。おれ自身も幼い 頃から年齢に不相応な小遣いを与えられていたから、金には困らな かった。 その日も中学生の「取り巻き」4~5人を引きつれて、学校も行かず に繁華街をぶらついたり映画を観たりしていた。田舎だからなかなか 新しい映画も上映されず、いい加減退屈して「おい、もう帰るぜ。」と 回りのやつらに声を掛けて席を立った。取り巻き達はまだ続きを観た そうだったが、「親分」であり「金づる」でもあるおれがいなくなる と、そのあと遊べなくなってしまうので、仕方なくおれの後を続いて 席を立った。 親父の息の掛かったスナックというかキャバレーというか、そういう 店に向かい、飲めないビールや焼酎の水割りなんかを飲み、柿の種を 齧ったりして大人の気分に浸っていた。30分もいれば皆酔っ払ってし まい、店のソファに寝っ転がって者もいる。おれはあまり酒を飲む気 にもなれず、そのころ流行りだしたレーザーディスク・カラオケのTV 画面を呆然と眺めていた。両替した百円玉が灰皿の上に、無造作に山積 みになっていた。 不意に玄関の自動ドアが開き、誰かが入ってきた。酒屋がミネラルウオ ーターだか、焼酎だかを運んできたらしい。球帽を目深に被り、人相が 良く解らない。店の照明もかなり落としているためよけいである。しか し、帰り際にちらりと見えた、奴の首の後ろにある大きな黒い痣には見 覚えがあった。 3組の伊藤だ。そうに違いない。 おれは、隣りですっかり良い気分になっている取り巻き2~3人に目配 せをし、そっと後を追った。 奴は店の裏に積んである空の空き瓶をリヤカーに積んでいた。おれは 背後にそっと走り寄り、思いきり背中を蹴り飛ばした。想像以上に派手 な音を立てて、奴はリヤカー上の空き瓶に上半身を突っ込んだ。沢山の ガラスビンが割れたようだ。数秒の後奴はゆっくりと身体を起こして こちらを向いた。確かに3組の伊藤だった。奴は、おれがここにいて そしておれに蹴り飛ばされたことに、別段驚いた様子もなかった。ただ ただ、冷たい憎悪の眼でこちらを見るばかりだ。おれは、奴が慌てふた めいて逃げ惑う姿を予想していただけに、拍子抜けした。同時に怒りの ようなものがこみ上げてきた。 「なんだ、おめえは、こんな酒屋のバイトしてんのか。この貧乏人が。」 おれは叫んだ。奴は何も言わない。奴には父親がおらず、母親はいるには いるが、昼間から飲んだくれているアル中だ。奴が新聞配達をしているの は知っていたが、こんな酒屋の下働きをしていることは知る由もなかった。 「なんだよ、掛かってこいよ、悔しくないのかよ。」 奴は黙って散らかったビンを片付け始めた。その姿をみて余計に腹が立っ てきた。なんだか自分をないがしろにされたように思えてきた。 「ちくしょう、おい、こいつに金をめぐんでやろうぜ。店の小銭持って 来い!」 取り巻きのうちの一人が、例の灰皿に山積みの百円玉を重そうに持って 走ってきた。 「ようし、おまえら見てろよ。おれ様が貧乏人に金を恵んでやる様を よ!おうら、賽銭だ!」 灰皿の百円玉を鷲掴みにして、奴の背中に向かって思いきり投げつけた。 2回、3回と続けて投げつづけた。後頭部に当たる鈍い音もした。ここで 奴はキッとこちらを睨んで言った。 「金をおもちゃにするんじゃねえ。」 思いがけず、大人びた太い声だった。 おれは焦って、最後の一掴みの百円玉を奴の顔に向かって投げつけた。 奴は両手で顔を覆ってその場に崩れ落ちた。指の隙間から赤い血がだらり とたれ始めた。おれは虚勢を張って、ふん、と言ってゆっくりとその場を 後にしたが、逃げ出したいほど焦っていた、というのが事実だった。 その晩遅く、数台のパトカーがやってきて、おれではなく、親父が連れて いかれた。市発注の工事をめぐって、何か悪いことをしたらしい。 次の日から、おれは学校に行かなくなった。そのうち家や家業の建設機械 など全てを差し押さえられ、親父は自殺し、おれは従兄弟の家に預けられ たが、1年も待たずして逃げ出した。 月日は流れ、おれは日雇いの仕事をして日々宛ても無く暮らしていた。 家も家族も無く、ただ毎日スコップで穴を掘ったり埋めたり、の日々を送 っていた。 ある日、いつものようにおれは工事現場の深い穴のなかでスコップを振っ ていた。突然、操作を誤ったダンプカーから大量の砂利が頭の上に降り注 ぐ。視界が急に真っ暗になり、次に見えたものは病院の白い天井だった。 「気が付きましたね。ひと月も意識が無かったんですよ。」 濃い色の眼鏡を掛けた白髪混じりの医者が声を掛けてきた。 「大変な事故だったんですよ。生きているのが不思議だ。両手両足ともに 粉砕骨折、肺が押しつぶされて肋骨が刺さっていた。これから、治療を 始めるのだけれど、おそらくもうあなたは自分の足で歩くことはむつか しいでしょうね。」 そう言って、医師は動かないように固定されたおれの頭をなでながら、 おれの目を覗き込んだ。眼鏡の奥の右目は義眼らしく、動かなかった。 そして声を押し殺して、おれの耳元で確かに言った。 「おれは、おまえを、絶対に死なせはしない。 生かしもしないけどな。」 そう言って医師は立ちあがり、背を向けた。 首の後ろには見覚えのある大きな黒い痣があった。 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ つぎはだれだ。 つぎのテーマーは 【あんぐら】 だとおもうよ!
by wacky_racers
| 2007-03-14 13:46
| わんたん(金曜日)
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