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とある国のとある西に住むとある関係のフライーとズーニーという二人がおりました フライーが女性 ズーニーが男性で 彼等は時折モーシアという今はこの世に居ない男性の事を静かに語り合ったり黙り合ったりしていました モーシアは彼等にとって繊細で重要な存在だったのでしょう だからこそあまり話題に極力しない様にしていましたが 思い出してしまうと口にしてしまうという良いのか悪いのかの癖がこの二人にはありました ある日二人は日用品を街でどっさり買い込んで お喋りを楽しみながら自宅のコンドミニウムに戻りました エレベーターに乗り込み 自分達の住まう階数のボタンを押し そしてさっきまでの四方山話を二人は潔く遮断しました この空間に入ると人は何故か沈黙を保つという習性がありますが 彼等の沈黙はそういった現象からくるものではありませんでした 自宅は32階にあります 高層用エレベーターを使用せず通常用のエレベーターに乗っていましたからすぐには着きません 彼等が常用している方は五日前から故障して『使用禁止』とぶっきらぼうに書かれた張り紙が貼られていました それを見た時の五日前のフライーは眉をしかめて 「酷い字ね」 と呟きました ズーニーは黙ってその書き文字と彼女を交互に見つめました 「字っていうのはその人の性質を現すの 全く 不自由な現状にこんな乱暴な字の書き方ってあるかしら ろくな業者じゃないわね 壊れて当然なのかもしれない」 「不具合に焦ってたんじゃないのかな彼等は」 フライーは不愉快な表情をそのままズーニーに向けて 貴方って分からないのね と溜め息さえもつきました 「非常時な時程 丁寧に何事も行わなければならないわ 考えなくてはいけない モーシアなら・・・」 彼女はそこで言葉を止め 行きましょ と通常用エレベーターのボタンを手の甲で押したのでした そして五日後のエレベーターの中 沈黙は続いています フライーは感情を映さない横顔で大きな買い物袋をきちんと胸に抱えていましたが ズーニーは我慢出来なくなって彼女に声をかけました 「どう思う?」 「さあね」 「さあね ってフライー エレベーターの中が血だらけなんだよ 床も壁も天井まで・・・何が起こったんだろう」 「考えても仕方がないことよ」 「どうして」 「私達がしでかした事じゃないもの びくつく必要は無いし下世話な勘ぐりは止めなさい」 「下世話って 普通の人間なら息を呑んだり喚いたり まずこの箱には乗らないよ」 「私がまともじゃないみたいな言い方ね 構わないけれど32階までこの大荷物を持って階段を上るのは御免なの 貴方 嫌なら次で降りて徒歩で登っていらっしゃいよ」 「こんな場所に君を一人には出来ないよ」 「貴方が一人になりたくないんじゃないかしら 私達いつも一緒だし」 「疑問を感じないの ボタンを押した君の指先も先週買ったブーツも血に塗れてるんだよ」 「そうね でも洗えば綺麗になるもの」 ズーニーは血の匂いが充満する狭い中で吐き気を覚え壁にもたれ掛かりたくなりましたがジャケットが赤に染まってしまいます 彼は出来る限りの忍耐力を持って目をじっと瞑りました 「そっか」 フライーが小声で彼を眺めながら少し笑いを含んだ言葉を発しました 「貴方は血に慣れていないものね」 「え?」 「私は毎月 血を見ているから こういうのは違いがでるのね」 どういう意味 とズーニーが質問しそうになった時 彼は あ と事の成り行きに気付き少し頬に熱さを感じました 「全く あんなもの毎月うんざりするわ 子供なんか私は欲しくないのに 早く歳をとりたい」 彼女の言葉にズーニーは驚いてまじまじとフライーを見つめました こんなに瑞々しい肌と姿勢正しい姿を持っている彼女が老婆に生き急ぎたいと願っている事が彼にとってはショックでした 「でも 男性は男性で大変なんでしょうね 色んな自然の処理が」 「フライー!」 「着いたわよ」 エレベーターの扉が開きフライーはさっさと箱から出て行きました 血の足跡が廊下に付いてゆきます ズーニーはフライーを呼び止め このままだと自分達の部屋に続いてしまってきっと警察が来てしまうと不安げでした 「で?」 フライーは彼を不思議そうに振り返りました 「足跡を消すの?それはコンドミニウムの清掃者の仕事よ」 「どっちにしろ疑われる」 「何だか犯人の台詞みたい 堂々としてなさいよ それとも貴方がやったの?」 「まさか」 「早く部屋に戻りましょうよ アイスクリームが溶けちゃう」 二人は部屋に戻りました 「ただいま モーシア!」 フライーが朗らかな声を部屋中に響かせました 勿論 モーシアは既にこの部屋にもこの世にもにいません そして彼女が部屋に帰宅する度にこの台詞を言う訳ではありません 年に一度だけ つまりモーシアがこの世界を捨てた日にフライーとズーニーはモーシアの嗜好品や彼が残した一枚の手紙 遺言なのですが彼等はそうとはとらず名文の詩を読み上げる様にじっくりと味わう つまりモーシアの全てを時間をかけて味わう大切な日でした 「モーシアは陽だまりがすきだったから 全部の窓のカーテンもレースも開きましょう」 「メイプルアイスクリームとウィルキンソンとサンダルウッドのオイルと・・・音楽は何からかける?」 「そうねぇ 今年はフランキー・ヴァリがいいんじゃないかな」 「世界地図も出して壁に貼る?あのお化けみたいにでっかいやつ」 「破損しない様にね さぁて料理を作るわ まずはコンソメ ドゥーブルにしなくちゃ いつも緊張するわ どうしたって彼が作ってたものにはかなわないもの」 「君のだって絶品だよ 後 サンドウイッチ どんな店も食べたら驚いて唸ると思うな」 「モーシアは シンプルで上等なものが好物だったわね もっと彼に秘訣を聞いておけばよかった でも年々少しは上達してるのかしら?」 「勿論だよ フライー」 ズーニーは本気の言葉でしたが フライーはほんの少しの間哀しい顔をしました 「上手くなりたくないわ」 「どうして」 「モーシアしか出来なかった事を私が出来る様になりたくないの 矛盾してるけどそういう振り子が気持ちの中にあるのよ」 血だらけになった手を洗いながら彼女は迷子の様な眼差しで けれど芯のある声音で吐露しました 「貴方も手を洗いなさいよ 靴は後でいいから」 「うん」 暫くして料理が出来上がり二人はゆっくりたっぷりそれらを食べながら音楽を聴きモーシアの思い出話に花を咲かせました けれどモーシアの写真は何処にも飾っていませんでした どちらが決めたわけではなく どちらもそういう気持ちだったからです けれどフライーは会話の途中にすぐ隣に穏やかな笑みを浮かべているモーシアが本当に居るかの様に だって そうよね モーシア?と不在者の椅子の方向に可笑しそうに首を傾けたりもしました ズーニーはそんなフライーに一抹の漠然とした不安を感じていましたが水をさす様な事はせず 頷いてウィルキンソンをストローで飲み干してはまた次を開けるという態度を保ち続けました 「全く」 フライーの口癖です 「全くモーシアったらお酒は何も呑まない人なんだから ワインくらいたしなんでくれればよかったのに」 「お酒呑みたいの?」 「ええ」 「ビール持って来ようか?」 「・・・・」 「いいじゃない モーシアは君の笑顔を見るのがとても好きだったよ」 「貴方は?」 「僕も」 「そう」 「モーシアだってビール位呑んだよ きっと」 「煙草もね」 二人はカウチに寝そべってビールと煙草を楽しみました 何故か後ろめたさも無く罪悪感も無く 一通り音楽を聞き終わると ぼんやりとフライーが呟きました 「モーシアは煙草を吸ってたと思うな」 「うん?」 「だって あの世界地図見てよ あの黄色 多分ヤニの色よ」 「古くなったからじゃない?」 「煙草よ」 フライーが起き上がって地図に近寄り ふうっと煙を吹きかけました 「こういう距離で彼も地図を見てたのね しかしこんな大きい品物幾らしたのかしら どうして欲しかったのかしら」 「勘ぐりはいいの?」 「そうね」 ズーニーへ振り返らず彼女はあっさり相槌を打ち そして険しい声で言いました 「でも モーシアは例外よ 邪魔しないで」 「邪魔してるつもりは」 「私がそう感じてるの 止めて」 「分かったよ」 「何 その言い方」 「フライー 呑み過ぎだよ」 「お互い様でしょ」 「話を変えない?」 「何の?」 「さっきのエレベーターの件とか」 「下らない」 「どうして?異常事態だよ」 「だったらモーシアも異常だったの?彼は血塗れの中で死んだわ 自分でそれを選んだ 私達に止める権利は無いのよ」 「水を飲んでよ フライー」 「要らない」 フライーはリビングを出て行き部屋の扉を開けようとしました 「何処に行くの?」 「エレベーターよ」 「待ってよ」 「屋上に行く」 「何の為に?」 「行ってから決めるわ 誰かもエレベーターに乗って決めて血を流したか流させたんじゃないかしら」 ズーニーが一呼吸置いてフライーの頬を叩きました けれどフライーは表情ひとつ変えません 「謝らないよ 部屋に戻ろう 残ってるアイスクリームを食べない?」 フライーは口をききませんでしたが素直にズーニーに手をひかれリビングに戻りました 「コーヒー飲む?」 「・・・・」 「紅茶にしようか」 「・・・・」 「フライー」 「似てるわね」 フライーはカウチに座り込みこめかみを押さえました 「モーシアが逝く前の兆候と私 今 似てる 貴方 私やモーシアの様になっては駄目よ」 ズーニーは黙って涙を流しだしたフライーを黙って見下ろしました 「似てる丈だよ 先の事なんて誰にも分かるものじゃないと思うよ フライー」 ズーニーは煙草に火を点け モーシアの地図の側に行き ふうっと煙をそれに吹きかけました そして煙草の先を適当な箇所に押し付けました 「何やってるの!」 フライーはカウチから飛び起き地図に駆け寄りましたが 既にぽつん と小さくに一部が焼けとんでしまっていました 彼女は言葉も無くそれを見つめ 愛おしそうに 静かに静かに世界を撫でました 「君もさっき煙を吹きかけたね 僕も同じ事をした でも その後はお互い違う」 「何処を焼いたの」 「分からない 地理には疎いんだ」 「私もよ」 「モーシアもそうだったね」 「それなのに地図を大事にして見てたわ」 「ねえ フライー」 ズーニーは彼女を抱き寄せ囁きました 「穴があいた所は分からないけど 調べて 来年はその地図から消えた場所へ行こう そこで又モーシアの話をしようよ」 フライーは返事をしませんでしたが肩を震わせながらズーニーの胸の中で何度も何度も頷きました ズーニーはフライーを抱いたまま 大きな 本当に化け物の様な世界地図を眺めながら 焼けこげた箇所を眺めながら呟きました 「此処は何処だったんだろうね」 彼の頭の中には もう血塗れのエレベーターの事は消え去っていました 考えてもどうにもなる事ではない現実に少し足を浸せた様な穏やかな気持ちが 紫煙と共に漂っている丈でした お次のお題は 【車窓から観る夜景】 です
by wacky_racers
| 2007-11-14 15:47
| 兄海(・・・)
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